1990年代と2000年代

私は1997年に日雇い派遣の世界に入りました。
1997年当時はまだ派遣は今ほど一般的ではなく、見かけるのは傭兵のような風情をした怒りっぽくガラの悪いベテラン、そして演劇人、バンドマンなどが主でした。
若い人もいるにはいたのですが、やはり暇な時間を使っての学生がほとんどで、20代前半で常駐しているのは一風変わった人達でした。
そして当時は時代背景もあったのでしょう。時代の闇の煽りを受けたのであろう、サラリーマンのオーラを纏った年配の人もチラホラ見かけました。

今でこそ極悪のように言われている日雇い派遣会社ですが、当時は社会からハジかれ、通常バイトの受け口すらなくなった人達にとっては、一時的な食い扶持となっていた日雇い派遣は必要なものだったのでしょう。

日雇い派遣は面接で落とされる事もなく登録でき、登録すれば後は事務所に電話をかけまくって熱意を見せれば仕事がもらえるのです。

派遣先の業者が持っている日雇い派遣への認識も現在とは違いました。
現在、日雇い派遣は慢性的に人手不足な肉体労働現場では欠かせない存在と認識されていますが、1990年代には会社が呼んで現場にやって来た日雇い派遣労働者が何者かイマイチわからないまま、仕事を与えている現場責任者をよく見かけました。

「結構、これで稼いでるんだろう?いいなぁ」
1990年代に、派遣先の現場の人によく言われた言葉です。
業者が日雇い派遣を呼ぶと一人当たり12000〜15000円が相場と聞いた事があります。実際に派遣労働者が貰うのは7000円に満たない場合が多いのですが、派遣を呼んだ業者はそんな事知りません。
そして、派遣労働者も規則として業者にいくら貰っているか、言ってはいけない決まりがありました。

業者「結構、これで稼いでるんだろう?俺もやろうかな」
「いや、全然貰えないですよ?これだけだと生活もできないくらいです」
業者「ええ?ウチは結構払ってるぞ?」

昔はこのやり取りを何度もしました。

「そんな歳で、こんな事して・・・。何やってんだよ」
これも1990年代によく言われた言葉です。
現在は日雇い派遣の認知度があがり、人材確保を完全に日雇い派遣会社に依存 している業者が増えた事もあり、思っても口に出す人はいなくなりました。
この言葉を現場の人間が口に出さなくなった事を良い事だとは私は決して思いません。
「そんな歳で、こんな事して・・・。」
この言葉を言われる事は、自分の立場を再認識して奮い立たせるカンフル剤になるんです。

 
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案件内容
現在、日雇い派遣は労働者派遣法によって国によって存在を認められています。
しかし、存在を認められたという事は国の定める規制もちゃんと守らなくてはいけません。
その為、1990年代と2000年代では仕事内容も随分変わりました。
私が入った1997年当時は「ヘルメット現場」と呼ばれる仕事が多くありました。ほとんどが建築現場で「ガラ出し」や「揚重」などです。
ちなみに「ガラ出し」は、掃除のようなもの
「揚重」とは資材の搬入のようなものです。
現在、派遣は建築現場への出入りを禁止されている為、これ等の仕事はありません。
あと、高所作業も結構ありました。
「俺ら、こういうのやっちゃいけないんじゃね?」
などとブツブツ言いながらもやっていました。
もちろん、これも違法であり、現在ではそのような仕事はありません。

それともう一つ、昔の日雇い派遣労働者は一日に何件も仕事をこなしていました。
「仕事がある時に、少しでも多く稼ぐ」
どんなに無茶なスケジュールになろうとも、これが昔の日雇い派遣のスタイルでした。
今は、どんなに忙しくても、仕事が早く上がって事務所でたむろっている人間がいても、一日に何件も仕事を入れられるという事はありません。

       
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